Thursday, January 6, 2011

起業で成功する移民

2002年に『移民のまちで暮らす』(社会評論社刊)を上梓したとき、私のなかにはもうひとつ、本のアイデアが芽生えていた。拙著『移民のまちで暮らす』は、世界中の文化を体現したような、さまざまな人たちが暮らすマルチカルチャー都市トロントで、マルチカルチャーの可能性を日本人の移民である私の経験をもとに考察したものだが、結論的にはマルチカルチャーは民主主義社会の基盤を強くし、数多くのベネフィットを社会に還元するという結論に落ち着いた。そのベネフィットのひとつとして、私は「新しいアイデアの創出」をあげた。そして、新しい本のアイデアは、このあたりをもっと深く掘り下げてみることだったが、私の人生はあっちへまわり、こっちへ帰りで、結局いまだその本を書く状況には至っていない・・・。

さて、生涯を通して「ビジネス」とはまったく無縁な生活を送っている私だが、昨今のビジネスに必要な要素とはInnovation, Invention, research and developmentであって、基本をおさえた上でいかに新しいニーズを探り出すかに、ビジネス・センスはのよしあしがかかっている、という点だけは、新聞など読む限り理解している。そのうえで必要な「新しいアイデアの創出」は、日本でよく言われるように従来の考え方ややり方に「風穴をあける」ということ。これは、考え方におけるクリエイティビティ、柔軟性、発想のゆたかさ、などがあげられ、他の国民に比べ、日本人はとりわけこの側面で弱いとされている(し、日本の外から見ていると実にそう感じられる)。

従来の考えかたややり方とは違った見方ができるのは、ある意味でアウトサイダーの強みであるといえる。そういう意味で、多くの文化的背景をもつ人たちが集まるマルチカルチャー都市では、「新しいアイデアの創出」というより、移民が自分たちの文化を新しい視線でビジネスに持ち込むことは、そのままInventionとなる。

さて、Globe紙のBusiness Sectionに(Jan. 5, 2011)それをそのまま体現したような記事が載っていたのでご紹介したい。

南インドでは、ダウンタウンで働くビジネスマンにお昼のランチを届けるサービスがある。家で奥さんが作ったランチ(お弁当)をあったかいうちに会社で働く夫に届けてもらえるサービスで、私も以前、ランチバッグをたくさん載せた車をワーラーが引っ張っている写真を見て、非常に興味深いビジネスがあるものだ、と思ったことがある。さて、トロントで働いていたインド出身の女性が、出身国では当然になされていたこのサービスのニーズに目をつけて、トロントでランチ配達ビジネスを始め、これがかなりうまくいっているらしい。彼女も驚いたことに、サービスを利用する人たちの多くは、ITや弁護士、金融関係の仕事に従事する若い白人男性で、すばやく済ませることのできる、ヘルシーなランチを求めている人たちがクライアントらしい。

記事では、このようにForeign concept(新しいコンセプト)を持ち込んでカナダで成功している例のひとつとして、プライベート・チュータリングのサービスを導入したKumon(公文)を挙げていたが、この他にも移民が、とりわけフード産業で海外文化のコンセプトを持ち込んで、健康ブームなどに乗っかって成功しているビジネスを私もいくつか知っている。

日本の経済低迷を解消するためにはいくつもの方法があると思うが、移民政策をよりオープンにすることも、そのひとつだろうと思う。外から見ているとグローバル経済の波にうまく乗っかってない日本だが、このまま孤立したまま、いったいどこへ行くのだろうか、わが母国は・・・。

Globe紙の記事Foreign concepts, Canadian profits(いつもながら冴えてるわね、コピーが)
http://www.theglobeandmail.com/report-on-business/your-business/

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