Butcher of Bosniaと呼ばれるラトコ・ムラディッチがボスニア=ヘルツェゴビナ紛争から16年経った2011年5月26日、ついにセルビア当局によって逮捕され、ICC(International Criminal Court)へ送られることになった。ムラディッチはボスニア=ヘルツェゴビナ紛争でボスニア=セルビア軍の指導者として、少なくとも7500人のボスニア系イスラム教徒の虐殺および女性に対するレイプを主導したとされる。
第二次世界大戦後、ヨーロッパを襲った最悪の虐殺はボスニア=ヘルツェゴビナ紛争の際に起きた。とりわけスレブレニツァはイスラム系およびクロアチア系に対するエスニック・クレンジングの場所となった。
16年経ったムラディッチが今まで逮捕もされず、法のもとに裁かれることがなかった背景には、世界では戦争犯罪の責任を課せられ、人間性に対する罪を問われていたムラディッチが、旧ユーゴスラビアのセルビア系からはヒーローのようにあがめられていたことが背景にある。実際、ムラディッチの居場所や行動はセルビア当局にはちゃんと把握できていた。ムラディッチを目撃したという声も頻繁に聞かれ、ムラディッチがまったく普通の市民として生活していたことも知られていた。ただし、セルビア系のあいだにはムラディッチに対する支持は強く、たとえば、先月の調査によると51%のセルビア系市民がムラディッチのハーグ送還を支持しないと答えていた。
こうした背景もあり、セルビア当局は時期を選ぶかのように、こうして長い間、ムラディッチを自由に泳がせていたが、ヨーロッパ連合(EU)への加盟はセルビアの長年の念願であり、その条件としてムラディッチのハーグ送還は不可欠だった。
ムラディッチに直接会ったというジャーナリストの記事を読んだ限り、横暴で傲慢なプロフィールが描かれているが、昨日逮捕されたムラディッチの姿にはそうした様子はまったくなく、痛みに苦しむ弱々しい老人という変わり様だった。
数ヶ月前はチリでアレンデが逮捕されたという記事を読んだ。こうして時間はかかっても正義がなされることは大切だと思う。
アーナ・パリスの「歴史の影」を翻訳したとき、彼女の言っている「不処罰は人々の心を荒ませる」というのに強く共感したものだ。自分が暮らす社会で不処罰が堂々とまかり通っているのを見れば、人々はルールを守らないことを何とも思わなくなってしまうし、将来に対する希望が持てない。そして、人々の心は荒み、国家は内部で崩壊してしまう。正義がなされる社会でのみ、人々は明るい展望を持てるのであり、社会正義は健全な国家にとっては基盤のようなものだと思う。ムラディッチの逮捕およびハーグ送還により、セルビアは確かに過去に終止符を打つための一歩を踏み出したのであり、今後は和解に向けたプロセスを始めるきっかけになるであろう。
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