記事はこちら http://www.theglobeandmail.com/news/politics/ottawa-plans-new-rules-for-boat-migrants/article1670700/
5月にタイを出航し、約500名ほどのタミル系スリランカ人を乗せた船MV Sun Seaがバンクーバー沖に到着した。到着と同時に、カナダの国境警備隊によって保護されたタミル系スリランカ人は今後、Refugee claimants(難民申請者)としてカナダ政府の拘置所に一時的に収容されるという。
スリランカでは、数年前から政府(シンハリ系、宗教的には仏教徒)によるタミル・タイガーという政治組織との間で内戦状態が続いていたが、去年の秋にタミル・タイガーが敗北したのを受けて、多くのタミル系住民(おもにヒンドゥー教徒)が国外に流出しているが、西洋諸国ではオーストラリアが非常に厳しい対応を見せたあと、カナダに向かうタミル系が軒並み増えている。実際、西洋諸国でもカナダは最も多いタミル系ディアスポラ(国外に暮らす人)人口を抱え、なかでもトロントは事実上の「タミル首都」となっている。
昨年10月には、同じようにタミル系スリランカ人76人を乗せたOcean Ladyがバンクーバー沖に到着後、難民申請をし、現在、全員がトロントで難民申請の審査結果を待っている状態。関係者の話では、数年のちには全員にカナダにおける法的滞在が認められる可能性が高いという。
今回の500名はもちろんビザや特別な渡航書類などもっていない。タイかどこかで国境を越えて人を移動させる密輸業者(Human smugglerとかHuman traffickerと呼ばれる)に高いお金を払って、船に乗った人たちだ。彼らをIllegal immigrants(不法入国者)と呼ぶか、Refugee claimants(難民申請者)と呼ぶかはかなり難しいところだろう。
タミル・タイガーという組織は、カナダ政府によってテロリスト組織と認識されており、今回の難民申請者のなかにもこの組織とかかわりのある人がいるのではないかとカナダ政府も彼らの選別には特別注意を払うという。とりわけ保守党政府のなかには、カナダの人道的な国境警備や寛大な移民政策を利用しようとしている密輸業者などに対する警戒感があるため、今回はカナダを利用できるという「前例をつくらないため」に厳しい措置を取る必要性を主張する議員も出てきている。
一方で、国内の意見は2分しているが、根底には、ある人がある国で命の危険にさらされるなら、カナダは彼を保護する義務がある、という考えがカナダ人全体を貫いている。ただし、その人がテロリスト組織や戦争犯罪を犯しているなら、こうした人たちはカナダの庇護に値するものではないので、厳しく選別することが重要である、というのも大半の意見だろう。海外のカナダ大使館で難民・移民申請をして結果を何年も待っている人たちがいる一方で、こうやって不法に国境までやってきて難民申請をする人たちがいるのは制度の悪用とする声もある。昨年の76人もそうだが、今回の500人も、難民申請をして結果が出るまでは国民の税金で彼らの生活はまかなわれることになる。
スリランカ内戦が続いていたころ、トロント市内のアメリカ領事館前では、連日のようにタミル系住民による抗議活動が続いていた。ポスターやプラカードには「カナダはスリランカ政府によるタミル系住民への迫害に行動を起こすべきである」と書いてあったが、トロント市民の多くは彼らに同情的であったとは思えない。他国の政治に干渉するのは、よほどのことがない限り国際法違反であるし、迫害されているとするタミル・タイガーがテロリスト的手法を使って政府と同じような残虐なことをしているという状況を鑑みても、この抗議活動が人道的な市民に飛火することがなかったのも当然といえる。
カナダは、難民の受入国として非常に寛大な措置を取ってきたことで国際的にも知られる。母国で命の危険にさらされる場合が考えるときは、たとえカナダ国境まで来る手段が不法であったとしても、国境で難民申請できる。
しかし、第二次世界大戦中、多くのユダヤ人を乗せた船がカナダに到着したが、当時の政府は彼らを追い返し、結果的に全員がドイツに返還されたあと、収容所で虐殺されたという歴史がある。さらに、1914年にも376人のインド人を乗せたコマガタ丸がバンクーバーに到着したが、当時の政府は追い返している。この2つの事件に対しては、のちに政府が謝罪を行い、人種差別的な過去の移民政策に対する反省としている。
今回の出来事も、よほどの例外が見つからない限り、カナダ政府は結果的に全員を難民として受け入れることになるだろう。
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