先日、ケベック州National Assemblyで女性がニハブ(ヘッドドレス)を着る宗教的権利についての公聴会に招かれたWorld Sikh Organization of Canada(シーク教徒の世界的組織。彼らはカナダ支部のメンバーでカナダ人)のメンバーが身につけているカーパン(シーク教徒が片時も離さず身につけている小さなナイフ:正義のために戦うことの象徴的意味が含まれる)がセキュリティに抵触するとしてAssembly参加を拒否され、国内で大きな問題になった。
皮肉にも、ケベック州議会の公聴会に招かれていたシーク教徒たちは、宗教的マイノリティの権利をどこまで認めるかを話し合うために招待されていた。そこで、彼らの宗教的権利が拒絶されたことは皮肉としか言いようがない。
この問題は、Reasonable Accommodationの範疇に入り、カナダをはじめ多文化主義社会ではしばしば物議をかもす話題である。
多文化社会であるカナダでは、憲法の一部であるCanadian Charter of Rights and Freedoms(人権憲章)で、さまざまなマイノリティに対する差別の禁止とともに、Accommodation(これ、日本語にするのが難しい言葉のひとつなのだけれど、社会的に受容するという意味合いがある。「許容する」ではなくて、マイノリティにとって快適でなるように社会のルールを変えるという意味合いにとらえられる)を求めている。
このAccommodationはそのことによって被る影響の方がネガティブでない限りにおいて、必ず受容されなくてはならない(Undue hardshipと呼ばれる)。ということで、まずはAccommodationが憲法で保障されているという点を強調しておきたい。
これまでの例をあげてみると、2006年には、これもケベック州だったが、シーク教徒の学生が学校にカーパンを持ってくる権利を認めるかどうかというので議論になったことがある。結局、この件は最高裁判所まで行き、最終的には学生の権利を最大限考慮する判決となった。この問題がカナダをにぎわしていたころ、確かフランスでは学校に宗教的オーナメントを持ってくることを禁止する法律が制定されたのだった。私は新聞を読みながら、マイノリティ宗教に対して大陸とカナダでの対応の違いに驚いた記憶がある。
Reasonable accommodationという言葉は、多文化主義を語るための非常に重要なキーワードである。マイノリティの権利をどこまで受容するのか。この問題は多文化社会では繰り返し形を変えて現れるのだけれど、カナダで最も深い印象を残したケースといえば、RCMP(The Royal Canadian Mounted Police カナダ国家警察、Mountieとも呼ばれる)メンバーにターバン着用を認めるかどうか、の議論だったと思う。シーク教徒のバルテジ・シン・ディロンBaltej Singh DhilionがRCMPへの就職を許可されたとき、ターバン着用は認められていなかった。赤い制服、そして茶色の帽子はMountieのシンボルだった。帽子を着用するためにはターバンを外さなくてはならない。しかし、シーク教徒としてターバンを外すことはできない。シン・ディロンはこのケースを公の場に持っていった。
カナダ人の意見はまっぷたつに割れた。ここはカナダなのだから、カナダのルールに従うべき。いや、Mountieの価値は制服にあるのではなく、国を守る気持ちがあるかどうかにかかっている。一部にはアンチ・シーク、アンチ移民の動きすら顕著にあらわれた。
結局、1990年、8ヶ月の議論の末、カナダ国会はRCMPの服装ルールに変更を加え、ターバン着用を許可する。
シン・ディロンはこのケースを公にすることでカナダの多文化主義の意味を問いただしたともいえる。ほぼ20年前の1971年にはカナダは多文化主義を国家の政策として発表し、移民を同化するという今までのAssimilationとは異なる、それぞれの国民の文化的ヘリテージをカナダのために役立てるという、まったく新しいMosaicのコンセプトを打ち出した。それ以降、Reasonable Accommodationはカナダの多文化主義を完成させるために必要不可欠なプロセスとなった。
こうして書いていて思うのだが、カナダの多文化主義はこうしてマイノリティが自分たちの権利を主張することがきっかけとなり、国家的議論が巻き起こることで強化されていく。「多文化主義」が単なる「目標」ではなく、私たち市民の毎日の生活に直接触れるような「生活のあり方」に変わっていく。こうした議論をいくつもいくつも経ることで、カナダ国民はマルチカルチュラリズムの難しさを体得しながらも、カナダ人のアイデンティティを自ら打ちたてているのだと思う。
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