The Group of 8, The Japanese and Canadian Writers' Networkへの寄稿記事を転載
リンク:The group of 8 - The Japanese and Canadian Writers' Network
11月中旬に入ってきたニュース・アイテムのひとつは、女の子の方が学力的に優れている、というもの。男女間の学力格差は、北米やヨーロッパの先進諸国で問題化して久しいし、私も教える側から実際に見てきたのでちょっと書いてみたい。
カナダ政府の教育関連機関Education Quality and Accountability Office (EQAO) および Council of Ministers of Education, Canada (CMEC)によれば、グレード8(8年生)の生徒の学力を計った2010年のThe Pan Canada Assessment Program (PCAP)テストの結果、読解(reading)、数学(math)、科学(science)の3項目で、数学は男女ともに同点、読解と科学では平均的に女の子の方が得点が高かったという。これまでは男の子の方が得点が高かった科学に関しても、今回は女の子が高得点を得るという結果となった。
カナダの教育界では、これまでも男女の学力格差が何度となく取り上げられてきているが、その傾向をさらに裏付ける形になった。
学力格差の理由として学者や教育関係者が挙げるのは、ビデオゲームの影響や成長発達的差異、さらに「教育セクターにおける女性化」など。ビデオゲームの影響(男の子の方が何故かのめりこみやすい)、成長発達的な差異(女の子の方がことばを発するのが早い、とか、女の子の方が文章が上手、とか・・・)以上に私にはこの「教育セクターにおける女性化」というのが興味深い。
一例をあげると女性教師が圧倒的に多いこと。その結果として女性教師の好みで読書リストなどが作られ(たとえば「赤毛のアン」や「若草物語」。男の子は大嫌い!)、男の子の読書離れに結びつく点などが指摘されている。
また、北米では1960年代頃から従来の男性中心、白人中心の教科書やカリキュラムが大きな問題とされ始め、改良・変更が加えられてきた事実がある。たとえば、それまで教科書をはじめとする教育関連書籍の写真は、白人男性医師、白人男性科学者などの写真が圧倒的であったが、現在ではいわゆる「マイノリティ(女性、非白人)」の写真が大半を占め、反対に白人男性(白人男子)の写真は稀という。この結果、男の子は未来の自分の姿を、こうしたロールモデルに投影することができない。
この報告が発表される少し前に、トロント教育委員会(TDSB)はアフリセントリック学校設立を許可したが、これと同時に決められたのは男子、あるいは女子校の設置許可だった。実は、男子校設置許可の理由も、男女間の学力差であった。男子校設置により、男の子が興味をもつ主題や読み物を与えたり、行動ベースのプログラムを組み込むことができ、結果として男の子の学力の伸びにつながるものと期待されている。
高校中途退学率で見ると、カナダ全国で男子(10.3%)、女子(6.6%)と男の子の方が圧倒的に高い。また、カレッジ、大学、修士レベルの在籍数を見ても、女子が男子を上回っている(これはカナダだけでなく、OECD諸国の国際学力調査(PISA)でも結果は同じ)。10年以上も前の話で恐縮だが、日本の公立高校で教えていた私の経験からも、確かに女子の方が平均的に成績がよかった。とりわけ語学(英語、国語)にはその差が歴然と表れていた。よく見ていると、女子生徒は真面目にがんばって勉強する子が、男子に比べると多い。ただ、たまに学力というか、もともとのIQが高いんじゃないか、というような子はいつも男の子だったが・・・。
それで、ふと思うのだが、女子の方が学力的に優れているのなら、どうしてノーベル賞(科学に関する賞)受賞者には男性が多いのだろうか。大学の教授や学者、知識人には比較的男性が多いのだろうか。教育レベルでは制度的問題が改善されたが、社会的にみると制度的問題が未だ女性の進出を妨げている、ということなのだろうか。いや、単に女性のほうが能力的に優れているけれど、その能力を眠らせている、ということなのだろうか。このあたりも気になるところだ。
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