Monday, August 29, 2011

レイトンとカナダ政治における社会民主的価値


市役所前に設えられたメモリアル

トロント市役所前に集まったたくさんの市民


ジャック・レイトンの国葬が予定されていた土曜日、市役所のコンクリートいっぱいに書かれた市民からのメッセージを前に、彼の生き方、そして死がどれほどカナダ国民の心を深く揺り動かしたかに気付いてハッとした。

私個人にとって、ジャック・レイトンは何よりも、「弱者の代弁者」だった。トロント市議会議員として、さらに連邦政治に活動拠点を移してからはNDP(新民主党)の党首として、彼の政治的功績には、女性に対する暴力に対する法整備、ゲイ・レズビアンの権利獲得、ホームレスや社会福祉をはじめ、社会的弱者に対する社会保障が数多く含まれている。

日本で派閥争いや地元主義でしか動けず、行動どころか論理的なスピーチすらできない無能な政治家ばかり見てきた私にとっては、ジャック・レイトンのような政治家は非常に新鮮だった。
ジャック・レイトンが死の数日前に書いたとされる、カナダ国民に向けた手紙は、揺るぎない彼の信念を語っていて、非常に感動的である。

“Remember our proud history of social justice, universal health care, public pensions and making sure no one is left behind. There are great challenges before you, from the overwhelming nature of climate change, to the unfairness of an economy that excludes so many from our collective wealth, and the changes necessary to build a more inclusive and generous Canada”.

“And finally, to all Canadians, Canada is a great country, one of the hopes of the world. We can be a better one-- a country of greater equality, justice, and opportunity. We can build a prosperous economy and a society that shares its benefits more fairly.”
(最後に、すべてのカナダ国民へ。カナダはすばらしい国です。世界の希望のひとつといってもいいでしょう。私たちが望めば、今以上にすばらしい国にすることができます。より公平で、より正義に満ちた国、そしてより多くの可能性を秘めた国、社会的利益を国民のすべてが享受できる、ゆたかな経済と社会を作りあげることができるのです。)


ジャク・レイトンの手紙を読んで心を動かされるカナダ人の多くは、NDPサポーターでなくても、こうした価値をどこかに秘めているように私には思われる。実際、私の感じでは、このあたりがカナダを世界で最も成功したマルチカルチャー国家(多文化国家)にしているように思われる。というのも、マルチカルチャー国家として成功するためには、弱者にやさしい、寛容で、開かれた、社会正義がまかり通る社会でなくてはならないからだ。サーコージーやキャメロンが「マルチカルチャリズムは失敗だった」と言うのは、彼らの国がマルチカルチャー社会を実現するだけの基盤が整っていなかったことが原因なのだと私は思っている。

さて、市役所周辺にチョークで書かれたメッセージには、英語だけでなくスペイン語、アラビック、中国語、日本語もあった。タミル(スリランカ系)、中国系などさまざまなエスニック・コミュニティからのメッセージも掲げられていた。「弱者の代弁者」であったジャック・レイトンは、まさにマルチカルチャー国家になくてはならない政治家であった。
ジャック・レイトンの手紙には、Social Democratic(社会民主的)な価値 --社会正義、公平で開かれた社会、弱者にやさしい社会、寛容な社会、公平な富の分配、環境保護-- がちりばめられている。NDPの掲げる価値は、しかし、Social Democraticの伝統以外にも、カナダの政治史においては実は基盤として根強く残っているように思う。カナダ政治はイギリスの保守党的価値からはじまっているが、この保守党的価値には根強いNoblesse obligeという考え方が根付いている。これは、豊かな者は社会的弱者に対して保護を与える義務があるという、貴族的な考え方である。カナダの保守党(Conservative Party)も、歴史的にみるとRed Toryという政治的伝統があって、彼らは保守党に属しながらも弱者社会保障を掲げており、社会政策に関してはかなり自由党(Liberal Party)に近いと見られていた。

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