Sunday, October 10, 2010

Jane ElliottのEye of the Storm(どうやって差別を教えるか)

日本では高校で、トロントでは日本人学校で教師として働いたことがある。その経験、そして母親としての経験から、子どもに教えたい最も大切なことをひとつ挙げるとすれば、それは「自分および他者を尊敬をもって扱うこと」に尽きる。これは人間関係において最も大切なPrincipalだと私は思っている。それができなければ、子どもたちは友達あるいは他人をカテゴライズ、排除することを覚え、いじめや差別といった社会問題の担い手になる。

しかし、「差別やいじめをしない」ことをどうやって教えるか、という点になると、教師たちは「道徳」の時間をつかって長々と説教じみた説明をすることに終始している。

その点、アメリカの小学校教師ジェーン・エリオットのBlue Eyes, Brown Eyes ExerciseはProvocativeで私も最初にこのエクササイズについて知ったときは面食らった。

1960年代後半、マーティン・ルーサー・キング暗殺のニュースに触れて、ジェーン・エリオットは今まで考えてきた計画をクラスで実行することにした。それは、クラスの子どもたちを目の色によって2つに分け、最初は一方を「優れている」グループに、もう一方を「劣っている」グループとして故意に設定し、のちにその役割を逆転させることだった。それにより、子どもたちは実際に「劣っている」グループにいることがどういうことなのかを体験的に学ぶ、というものである。ちなみに、子どもたちはすべて白人で、今まで差別的に扱われた経験は皆無であったと思われる。

この様子を撮ったビデオを見るとわかるが、優劣をつけられた子どもたちは、自分のグループが課された役割を無意識的に担うようになる。たとえば、同じグループでも、「優れている」とされた日の学力テストのスコアは高かったのに、後日「劣っている」グループになったときには、低いスコアしか出せなくなっていた。さらに、優劣をつけられた子どもたちは態度にも変化があった。「劣っている」とされるグループの子どもたちは、一様にうつむいていたり、自信のない表情をしたり、恐れをあらわにしたりするといった態度にも、彼らの心理的ストレスが表れている。

このクラスでの実験の後、Jane Elliottは同じエクササイズを大人にも使うのだが、その結果は驚くほど衝撃的である(個人的には、涙なしではこの映像を見られない…)。Jane Elliottは「ほら、見てみなさい、あなたたち青い目の人はこんな簡単なこともできない」「さっき私が言ったことが分からないのね、やっぱりあなたは青い目だからね」「ま、青い目ならそれができないのも仕方ないわね」といった言葉で、一方のグループの自尊心をずたずたにする。

私たち日本人は差別されることがどういうことかを知っていると思っているが、実際に差別される側にたったことがあるだろうか。日本でマイノリティとして暮らす人たち、たとえば韓国・朝鮮系の日本人、白人以外の外国人、部落の人たち、ゲイ・レズビアンといった人たちがどんな経験を受けているか、私たちは知っていると思っている。しかし、実際にその立場に身を置き、その辛苦を味わったことがなければ、その「知っている」は、私たち個人的経験に束縛されたイマジネーション、表層的なイリュージョンに過ぎない。その点、私は海外で暮らす日本の子どもたちは、ある程度は差別といったものを経験しているのではないか、と思っている。そして、その経験を日本を差別のない社会にするために役立てることができるのでは、と思っている。ガンディーは、イギリス人社会に入ってはじめてインド人がどれほど差別されるかを知り、その自ら受けた差別の経験をはねかえす力をもって社会をよい方向に変えたのだ。

アメリカ社会でアフリカ系アメリカ人の、あるいはカナダ社会で先住民の人たちが年収や教育が白人のそれに比べて低いのは、彼らにだけ問題があるのではない。毎日の生活のなかで、周りから「劣等」の刻印を押されるような態度や制度に浸っていることで、「どうせ自分は・・・だから」とか「これができないのは自分が・・・だから」といった思いを無意識的に抱き、差別される側から抜け出せないスパイラルを作ってしまう構造面にも注目すべきである。自分が自らを規定できる自由を奪われ、周囲からのAssumptionやStereotypeによって束縛されることが差別の構造のなかに根づいている。それがどれほどDe-meaningなことであるかを身をもって知る、というのがJane Elliottのティーチング・ポイントなのである。

子どもたちにとっては、多少、過酷だとは思うけれど、彼らが学んだことが一生の教訓になったことは、10年後(だったかな)に同じ子どもたちが同窓会という形で集まり、当時の経験を語る後続のフィルムにははっきりと収められている。

過激ではあるけれど、教育者にとっては必見のフィルムだと思う。
http://www.youtube.com/watch?v=_IilULqX1bY&feature=related
http://www.janeelliott.com/

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