先日からカナダをにぎわせているニュースといえばこれ。2005年にトロントで同性結婚(same-sex marriage)したレズビアン・カップル(どちらも非カナダ人、それぞれフロリダとイギリス在住)が、離婚しようと思ったら、カナダ政府から「もともとの結婚が合法ではないから離婚もできない」と言われたということで、当事者をはじめ、2004年以降、カナダで同性結婚した非カナダ人カップルのあいだに混乱を招いている。
2004年にカナダ政府が同性結婚を合法化して以降、世界各国から同性結婚を望むカップルがカナダで(とりわけトロントで)結婚式を挙げるケースは少なくない。事実上、カナダで成立した15000件の同性結婚のうちの5000件は非カナダ人によるものであるという統計もある。
カナダ連邦政府法務省の言い分は、カップルがどちらもカナダ在住のカナダ人ではないのだから、彼らの国(あるいは州)が同性結婚を合法化していない限り、結婚は合法的とはいえない、よって離婚も成立しえない、というもの。カナダで合法的に離婚するには、カナダに最低1年は居住する必要がある。また、結婚した当事者の居住地で合法とされている限り、カナダで成立した結婚は合法とされる、という立場を取っている。
カナダで結婚式をあげた非カナダ人の同性カップルにしてみれば、突然、自分たちの結婚の合法性が覆されたのだから、意表をつかれた、というか仰天したことだろうと思う。しかし、同性結婚合法化から7年経った今になるまで、居住地、さらには結婚成立地の結婚に関する法律の違いによる問題は浮上していなかったのかというと、今年になって今回で2件しか浮上していないとのこと(これも驚きだわ!)。報道によれば、法律専門家や法務省は、居住地と自国の法律の間に生まれた、この奇妙なギャップに必死に取り組んでいるようである。
カナダの同性結婚は、自由党(Liberal Party)によって導入されたが、現在、政権を握っている保守党(Conservative Party)は従来、同性結婚に反対の立場であることから、ハーパー政府がこれを機に同性結婚の合法化を覆そうと試みるのではないか、との懸念も出ている。しかし、ハーパー首相は直ちにこれを否定し、現政府がこの問題を蒸し返す意図のないことを強調した。
参考)グローブ紙の記事はこちら:
http://www.theglobeandmail.com/news/politics/justice-minister-vows-to-clarify-laws-on-same-sex-marriages/article2300179/
アップデート:
政府発表「カナダで成立した同性結婚は海外でも有効」
カナダ政府は先日、「カナダで成立した同性結婚(Same-sex marriage)は同性結婚を認めていない国の住民のものでも有効」という発表を出した。
多くの人がこれで胸をなでおろしたことだろう。
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Friday, January 13, 2012
Tuesday, November 8, 2011
ヨーロッパのロマ問題と市民権を得つつあるネオナチ
先週はホロコースト教育ウィークということで、近所のトロント市立図書館でロマ問題についてのレクチャーが開かれていた。
「ホロコースト」といえばユダヤ人虐殺に対してつけられたことばであるが、ナチスによって殺害されたグループのなかには、ほかにもロマや同性愛者、障害者、共産主義者などもいたことを忘れてはならない。
この講演で知ったことだが、ロマにとってナチによる民族虐殺は「ポライモス」と呼ばれ、正確にどれだけの人口が殺害されたかは分かっていないが、戦後、ヨーロッパのロマ人口は3分の1まで激減したという。
ロマとは、インド北西部が起源とされる移動型民族で、ヨーロッパを放浪しながら暮らし、長年、少数民族として差別の対象となってきた。「ジプシー」という名称は、誤解に基づいて外部からつけられた名称であり、この言葉自体が差別用語だとされている。
講演のなかで、ルーマニアからカナダに難民申請している女性の話が出たが、彼女によればルーマニアにおけるロマ迫害のすざまじさといったら想像を絶するものらしい。突然、路上で襲われ、まわりには見ている人もいたうえに、警察もいたというのに彼らは何もせず黙って見ていたという。
ここ十数年ほどのあいだにヨーロッパ全土でネオナチの動きが活発化しているが、少数民族であるロマも迫害の対象になっている。「働かず、盗みを働いている」と言われ嫌悪されているが、ロマであるということを理由に就職や教育をはじめとする経済活動から締め出している社会構造をみると、これはれっきとした迫害であると思われる。
ちなみに、私も最近、新聞記事で知ったことだが、ここ最近、中央ヨーロッパのロマがカナダに難民申請をし、難民として入ってくるケースが非常に増えているという。講演をした女性は、「昨日、ジェイソン・ケニー(移民大臣)と会って、ロマ難民受け入れを要請してきた」と言っていた。
ところで、ルーマニアやハンガリーなどでは、反移民、反ヨーロッパ系の思想をもつ自警団の動きが活発化している。それとともに、同じ思想で動いているネオナチの動きも活発で、ハンガリーでは「ロマを収容所に入れよ」といったようなことを平気で政治家などが発言している。反移民、反外国人というスタンスを示している市長や政治家も実際にいる。ロシアでも数十年にわたって、同じようなネオナチの動きが活発化していて、これはプーチンがパワー・バキュームの後、ナショナリズムを煽り立てた挙句の醜い結末という感じがする。こうした話をちらほらとメディアで読んだり聞いたりしてきたが、その現状はどんどん悪化し、ヨーロッパに暮らす移民、あるいはエスニック・マイノリティにとって大変なことになっている、との思いを講演を聴きながら新たにした。
そうした状況をカナダから見ていると、あまりにもヨーロッパとの違いが明白になってきて、カナダの平和さに感謝の気持ちが湧いてくる。ナショナリズムは国民のあいだに案外簡単に植えつけられるが、一方ではその結末は醜いものであることは、歴史を見ると明らかである。ナショナリズムほど危険で胡散臭いものはない。
「ホロコースト」といえばユダヤ人虐殺に対してつけられたことばであるが、ナチスによって殺害されたグループのなかには、ほかにもロマや同性愛者、障害者、共産主義者などもいたことを忘れてはならない。
この講演で知ったことだが、ロマにとってナチによる民族虐殺は「ポライモス」と呼ばれ、正確にどれだけの人口が殺害されたかは分かっていないが、戦後、ヨーロッパのロマ人口は3分の1まで激減したという。
ロマとは、インド北西部が起源とされる移動型民族で、ヨーロッパを放浪しながら暮らし、長年、少数民族として差別の対象となってきた。「ジプシー」という名称は、誤解に基づいて外部からつけられた名称であり、この言葉自体が差別用語だとされている。
講演のなかで、ルーマニアからカナダに難民申請している女性の話が出たが、彼女によればルーマニアにおけるロマ迫害のすざまじさといったら想像を絶するものらしい。突然、路上で襲われ、まわりには見ている人もいたうえに、警察もいたというのに彼らは何もせず黙って見ていたという。
ここ十数年ほどのあいだにヨーロッパ全土でネオナチの動きが活発化しているが、少数民族であるロマも迫害の対象になっている。「働かず、盗みを働いている」と言われ嫌悪されているが、ロマであるということを理由に就職や教育をはじめとする経済活動から締め出している社会構造をみると、これはれっきとした迫害であると思われる。
ちなみに、私も最近、新聞記事で知ったことだが、ここ最近、中央ヨーロッパのロマがカナダに難民申請をし、難民として入ってくるケースが非常に増えているという。講演をした女性は、「昨日、ジェイソン・ケニー(移民大臣)と会って、ロマ難民受け入れを要請してきた」と言っていた。
ところで、ルーマニアやハンガリーなどでは、反移民、反ヨーロッパ系の思想をもつ自警団の動きが活発化している。それとともに、同じ思想で動いているネオナチの動きも活発で、ハンガリーでは「ロマを収容所に入れよ」といったようなことを平気で政治家などが発言している。反移民、反外国人というスタンスを示している市長や政治家も実際にいる。ロシアでも数十年にわたって、同じようなネオナチの動きが活発化していて、これはプーチンがパワー・バキュームの後、ナショナリズムを煽り立てた挙句の醜い結末という感じがする。こうした話をちらほらとメディアで読んだり聞いたりしてきたが、その現状はどんどん悪化し、ヨーロッパに暮らす移民、あるいはエスニック・マイノリティにとって大変なことになっている、との思いを講演を聴きながら新たにした。
そうした状況をカナダから見ていると、あまりにもヨーロッパとの違いが明白になってきて、カナダの平和さに感謝の気持ちが湧いてくる。ナショナリズムは国民のあいだに案外簡単に植えつけられるが、一方ではその結末は醜いものであることは、歴史を見ると明らかである。ナショナリズムほど危険で胡散臭いものはない。
Monday, November 7, 2011
カナダ移民政策の転換
カナダの移民政策に重要な変化が見られている。
先日、CBCラジオの Metro Morningで、Jason Kenny(保守党政府のImmigration Minister) が、来年度の移民政策についてインタビューを受けていた。ケニーによれば、カナダ政府は当面は移民の受け入れ数を現状維持としておきたいが、誰を受け入れるかに関しては政策に変化があるという。カナダはこれまで「技術移民Skilled worker」クラスの移民の呼び込みに最も積極的であったが、今後この傾向はさらに加速するという。一方、減少傾向にあるのは、スパウス(合法的結婚をしている、あるいは同棲パートナー、家族クラス)とその子どもたち、そしてlive-in caregiver(ナニー)プログラム(このプログラムについてはリンク参照:http://torontostew.blogspot.com/2010/11/blog-post_27.html)。また、ケニーによれば、2012年には240,000から265,000人を目標にしているという(カナダは毎年、全人口の1%にあたる移民をターゲットとして受け入れている)。
また、最も大きな変化のひとつは、両親、祖父母の呼び寄せプログラムで、このプログラムを2年間モラトリアムとすることとし、今後2年間は申請ができなくなること。そのかわりに、8週間ほどで申請許可がおりるスーパービザの発行が始まり、これによると親族は10年の間に最長2年間継続して滞在することができるようになるという。ただ、もちろんこれはビジタービザなので、滞在中の医療費は自分持ち、さらには$17K/yrの所持金が必要となる(つまり、カナダ政府の世話にならないのであれば、長期滞在は大歓迎、というスタンス)。
どの移民国でもそうだが、カナダが求めている移民は、カナダの経済に最もスムースに適合するカテゴリーの移民である。今回の政策変更を見る限り、カナダ政府が欲しい移民の像とは、独身で、英語かフランス語ができ、大学、または大学院レベルの高等教育を受けた専門職クラスの人、ということになる。数年前に設置された比較的新しいカテゴリー、the Canadian Experience Classでの申請は、移民申請から移民許可が下りるまでの時間が最も早急になされるという。このカテゴリーに相当するのは、カナダの高等教育を受け、英語フランス語のどちらかの言語に堪能な若い人たち。the Canadian Experience Classでの受け入れ移民数は2009年には2545人であったが、2012年には7000人に増加すると見込まれている。
インタビューで、ケニーは世界の先進国で移民競争が加速していることを強調し、カナダは現状の経済に見合った移民を受け入れる必要性を繰り返していた。さらに、カナダには、たとえばヨーロッパ諸国に比べると移民排斥を目指す政党はないし、一般のカナダ人も移民をあたたかく迎え入れているため、ヨーロッパで昨今見られる移民排斥の動きを心配する必要はない、と言っていた。
歴史的に見て、移民政策にどちらかというと消極的な保守党も、現状の経済水準を維持するためには移民数の維持が必要、という点では合意しているようだ。しかし、リベラル(自由)党政府との違いは、移民の選別に表れている。とりわけ問題の多い家族クラスや難民クラスをなるべく減らし、カナダ経済に寄与してくれそうな技術移民を積極的に受け入れることがその特徴である。家族クラスでは、最近、偽装結婚の問題が取り上げられており、難民クラスは難民申請をしてから後に国が生活費を提供しなくてはならないことから、どちらかというと問題が多いのである。また、保守党政権になって、移民に対する生活補助のSettlementプログラム予算は年々削減傾向にある。
カナダの移民問題の大きな課題のひとつは、受け入れた移民が自らのスキルをカナダ社会に還元できるような就職先を保障できる環境が作り出せるかどうか、である。カナダはニュージーランド同様、人口比でみると移民受け入れ数が最も高い国である。また、カナダの移民政策は、the best and brightestという言葉で知られる通り、世界でも最も優れた人材を集めることが基本である。そして、実際に移民でトロントに住んでいる人たちの大半が高学歴、技術職の人が多く見られる。就職エージェンシーでは、こうした元エンジニア、元IT技術者、元教師、元ビジネス・コンサルタントなどが多数、仕事を探している。私たちが実際に知っているのは、こうした移民たちが自分たちのスキルを活かせず、仕事が見つからず通常は賃金の安い仕事についているか(トロントのタクシー運転手の大半が博士号を持っている、というのはジョークにもならない事実)、失望して自国に帰国するか、あるいは最悪のケースは生活保護を受けている現実である。
この問題の鍵を握っているのは、いうまでもなく雇用者である。最近出されたある研究結果によると、アングロナイズされた名前の履歴書を送ると、非アングロサクソン系の名前より面接に呼ばれる可能性がはるかに高いということだ(10年ほど前にも同じ研究結果が出ている)。ことばや習慣の問題、会社の雰囲気にあっているかどうか、という点を雇用者は気にしているようだが、どこかに移民に対する偏見が見え隠れしているように思う。実際、移民といってもアメリカやイギリス、ヨーロッパからの英語の堪能な移民にとっては、就職は比較的難がない。
確かに連邦政府(あるいは州政府)の移民政策は、かなり公正であると思う。ただ、だからといってカナダでは移民差別がないというわけではなく、この国では制度上の差別はすでに撤廃されているが、実際問題としてみると、個々の心のなかにほんのわずかな偏見が残っている、というのが私の感じであり、これこそがカナダに移住した移民が数年後に気付くフラストレーションなのではないか。
先日、CBCラジオの Metro Morningで、Jason Kenny(保守党政府のImmigration Minister) が、来年度の移民政策についてインタビューを受けていた。ケニーによれば、カナダ政府は当面は移民の受け入れ数を現状維持としておきたいが、誰を受け入れるかに関しては政策に変化があるという。カナダはこれまで「技術移民Skilled worker」クラスの移民の呼び込みに最も積極的であったが、今後この傾向はさらに加速するという。一方、減少傾向にあるのは、スパウス(合法的結婚をしている、あるいは同棲パートナー、家族クラス)とその子どもたち、そしてlive-in caregiver(ナニー)プログラム(このプログラムについてはリンク参照:http://torontostew.blogspot.com/2010/11/blog-post_27.html)。また、ケニーによれば、2012年には240,000から265,000人を目標にしているという(カナダは毎年、全人口の1%にあたる移民をターゲットとして受け入れている)。
また、最も大きな変化のひとつは、両親、祖父母の呼び寄せプログラムで、このプログラムを2年間モラトリアムとすることとし、今後2年間は申請ができなくなること。そのかわりに、8週間ほどで申請許可がおりるスーパービザの発行が始まり、これによると親族は10年の間に最長2年間継続して滞在することができるようになるという。ただ、もちろんこれはビジタービザなので、滞在中の医療費は自分持ち、さらには$17K/yrの所持金が必要となる(つまり、カナダ政府の世話にならないのであれば、長期滞在は大歓迎、というスタンス)。
どの移民国でもそうだが、カナダが求めている移民は、カナダの経済に最もスムースに適合するカテゴリーの移民である。今回の政策変更を見る限り、カナダ政府が欲しい移民の像とは、独身で、英語かフランス語ができ、大学、または大学院レベルの高等教育を受けた専門職クラスの人、ということになる。数年前に設置された比較的新しいカテゴリー、the Canadian Experience Classでの申請は、移民申請から移民許可が下りるまでの時間が最も早急になされるという。このカテゴリーに相当するのは、カナダの高等教育を受け、英語フランス語のどちらかの言語に堪能な若い人たち。the Canadian Experience Classでの受け入れ移民数は2009年には2545人であったが、2012年には7000人に増加すると見込まれている。
インタビューで、ケニーは世界の先進国で移民競争が加速していることを強調し、カナダは現状の経済に見合った移民を受け入れる必要性を繰り返していた。さらに、カナダには、たとえばヨーロッパ諸国に比べると移民排斥を目指す政党はないし、一般のカナダ人も移民をあたたかく迎え入れているため、ヨーロッパで昨今見られる移民排斥の動きを心配する必要はない、と言っていた。
歴史的に見て、移民政策にどちらかというと消極的な保守党も、現状の経済水準を維持するためには移民数の維持が必要、という点では合意しているようだ。しかし、リベラル(自由)党政府との違いは、移民の選別に表れている。とりわけ問題の多い家族クラスや難民クラスをなるべく減らし、カナダ経済に寄与してくれそうな技術移民を積極的に受け入れることがその特徴である。家族クラスでは、最近、偽装結婚の問題が取り上げられており、難民クラスは難民申請をしてから後に国が生活費を提供しなくてはならないことから、どちらかというと問題が多いのである。また、保守党政権になって、移民に対する生活補助のSettlementプログラム予算は年々削減傾向にある。
カナダの移民問題の大きな課題のひとつは、受け入れた移民が自らのスキルをカナダ社会に還元できるような就職先を保障できる環境が作り出せるかどうか、である。カナダはニュージーランド同様、人口比でみると移民受け入れ数が最も高い国である。また、カナダの移民政策は、the best and brightestという言葉で知られる通り、世界でも最も優れた人材を集めることが基本である。そして、実際に移民でトロントに住んでいる人たちの大半が高学歴、技術職の人が多く見られる。就職エージェンシーでは、こうした元エンジニア、元IT技術者、元教師、元ビジネス・コンサルタントなどが多数、仕事を探している。私たちが実際に知っているのは、こうした移民たちが自分たちのスキルを活かせず、仕事が見つからず通常は賃金の安い仕事についているか(トロントのタクシー運転手の大半が博士号を持っている、というのはジョークにもならない事実)、失望して自国に帰国するか、あるいは最悪のケースは生活保護を受けている現実である。
この問題の鍵を握っているのは、いうまでもなく雇用者である。最近出されたある研究結果によると、アングロナイズされた名前の履歴書を送ると、非アングロサクソン系の名前より面接に呼ばれる可能性がはるかに高いということだ(10年ほど前にも同じ研究結果が出ている)。ことばや習慣の問題、会社の雰囲気にあっているかどうか、という点を雇用者は気にしているようだが、どこかに移民に対する偏見が見え隠れしているように思う。実際、移民といってもアメリカやイギリス、ヨーロッパからの英語の堪能な移民にとっては、就職は比較的難がない。
確かに連邦政府(あるいは州政府)の移民政策は、かなり公正であると思う。ただ、だからといってカナダでは移民差別がないというわけではなく、この国では制度上の差別はすでに撤廃されているが、実際問題としてみると、個々の心のなかにほんのわずかな偏見が残っている、というのが私の感じであり、これこそがカナダに移住した移民が数年後に気付くフラストレーションなのではないか。
Tuesday, October 11, 2011
オンタリオ州選挙の結果:Liberal(自由)党のマイノリティ政府
2011年のオンタリオ州一般選挙は10月6日の投票日を経て、Liberal(自由党)によるマイノリティ政府が確定した。マギンティ政府は予想に反して3期目の続投となった。
各党の議席数は次のとおり。Liberal(53席、前回比-17)Conservative(37、+12) NDP(17、+7)。
Liberalはマジョリティ政府に1席足りなかったが、接戦といわれていた割には票を伸ばし、Conservative(保守党)と大きく差をあける結果となった。NDPがこれだけの議席数を獲得したのは政権をとった時代以降初めて。投票率は49.2%と史上最低。
・トロント、オタワ以外はほとんど青
政党ごとの色分け選挙結果を見ると興味深いのだが、トロント、オタワの赤(Liberal)以外は大半が青(Conservative)になっていて、大都市に対する地方との差が浮き彫りになっている。さらに、GTA(グレーター・トロント)で見ても、合併前にトロントだった中心部は赤とオレンジ(NDP、とくにセンターといわれるダウンタウン)で、それを囲むように青が広がっている。トロント市内ではConservativeはまったく議席を獲得できなかった。
理由のひとつには、昨年選出された右派のトロント市長フォードの支持率が下がっていることが影響していると見られている。というのも、フォードは市長就任以来、市の抱える負債に取り組むため、さまざまな社会福祉プログラムや市営サービスを削減しようとしており、これに対するトロント市民の反発がすさまじい。たとえば、図書館の閉鎖というフォード案に対しては、カナダどころか英語圏でも屈指の作家マーガレット・アトウッドが反対陣営を張って市民運動にまで発展し、結果、トロント市議会は図書館閉鎖をキャンセルするという結果に終わった。連邦政府と市政府がConservativeによって運営され、そのうえ州政府まで保守派になってはたまらない、という危機感がトロント市内には確かにある。
・リーダーの資質
今回の選挙戦で、Liberal党マギンティ党首は明らかによいイメージを売ることに成功したと思う。州首相という信頼できる品格をそなえ、いつだって自信に満ちた話し方をしていた。討論などで攻撃されても、いつも一定の距離と理性を保ち、情熱と冷静さをそなえた対応は見ている人に安心感を与えたと思う。
一方、Conservativeのフダック党首は、選挙戦のあいだに取り返しのつかない2つの失敗をしでかしている。ひとつは、Newcomer(移民)をForeign worker(外国人労働者)と呼んだこと、もうひとつはオンタリオ教育相のガイドラインを批判しようと、ホモフォビックな攻撃的広告をまわしたことである。前者に関しては、人権擁護団体などから謝罪を求める動きもあったにもかかわらず、最後まで自分の非を認めないという頑なな態度だった。この彼の態度、加えて2つの失敗から、とりわけ移民人口の多い選挙区、あるいはDiversityをよしとする大都市圏で、Conservativeに対する不安感が広がっていたという気がする。
・経済的な先行き不安
しかし、各紙の報道を見ている限り、さらに私の実感としても、結局のところ、オンタリオ州民の脳裏にあったのは今後の、先のみえない経済的不安だったと思う。失業率は増え、アメリカ経済およびヨーロッパ経済の大混乱から、グローバル経済への波及と経済的不安要因は拡大し続けている。マギンティ政府の政治政策を見ていると、大きな予算削減はしないし、大きな抜本的経済改革もしない。しかし、現状維持をうまくやってきたという感じがある。そうした安心感も今回のLiberalの勝利に大きく影響したと思われる。
各党の議席数は次のとおり。Liberal(53席、前回比-17)Conservative(37、+12) NDP(17、+7)。
Liberalはマジョリティ政府に1席足りなかったが、接戦といわれていた割には票を伸ばし、Conservative(保守党)と大きく差をあける結果となった。NDPがこれだけの議席数を獲得したのは政権をとった時代以降初めて。投票率は49.2%と史上最低。
・トロント、オタワ以外はほとんど青
政党ごとの色分け選挙結果を見ると興味深いのだが、トロント、オタワの赤(Liberal)以外は大半が青(Conservative)になっていて、大都市に対する地方との差が浮き彫りになっている。さらに、GTA(グレーター・トロント)で見ても、合併前にトロントだった中心部は赤とオレンジ(NDP、とくにセンターといわれるダウンタウン)で、それを囲むように青が広がっている。トロント市内ではConservativeはまったく議席を獲得できなかった。
理由のひとつには、昨年選出された右派のトロント市長フォードの支持率が下がっていることが影響していると見られている。というのも、フォードは市長就任以来、市の抱える負債に取り組むため、さまざまな社会福祉プログラムや市営サービスを削減しようとしており、これに対するトロント市民の反発がすさまじい。たとえば、図書館の閉鎖というフォード案に対しては、カナダどころか英語圏でも屈指の作家マーガレット・アトウッドが反対陣営を張って市民運動にまで発展し、結果、トロント市議会は図書館閉鎖をキャンセルするという結果に終わった。連邦政府と市政府がConservativeによって運営され、そのうえ州政府まで保守派になってはたまらない、という危機感がトロント市内には確かにある。
・リーダーの資質
今回の選挙戦で、Liberal党マギンティ党首は明らかによいイメージを売ることに成功したと思う。州首相という信頼できる品格をそなえ、いつだって自信に満ちた話し方をしていた。討論などで攻撃されても、いつも一定の距離と理性を保ち、情熱と冷静さをそなえた対応は見ている人に安心感を与えたと思う。
一方、Conservativeのフダック党首は、選挙戦のあいだに取り返しのつかない2つの失敗をしでかしている。ひとつは、Newcomer(移民)をForeign worker(外国人労働者)と呼んだこと、もうひとつはオンタリオ教育相のガイドラインを批判しようと、ホモフォビックな攻撃的広告をまわしたことである。前者に関しては、人権擁護団体などから謝罪を求める動きもあったにもかかわらず、最後まで自分の非を認めないという頑なな態度だった。この彼の態度、加えて2つの失敗から、とりわけ移民人口の多い選挙区、あるいはDiversityをよしとする大都市圏で、Conservativeに対する不安感が広がっていたという気がする。
・経済的な先行き不安
しかし、各紙の報道を見ている限り、さらに私の実感としても、結局のところ、オンタリオ州民の脳裏にあったのは今後の、先のみえない経済的不安だったと思う。失業率は増え、アメリカ経済およびヨーロッパ経済の大混乱から、グローバル経済への波及と経済的不安要因は拡大し続けている。マギンティ政府の政治政策を見ていると、大きな予算削減はしないし、大きな抜本的経済改革もしない。しかし、現状維持をうまくやってきたという感じがある。そうした安心感も今回のLiberalの勝利に大きく影響したと思われる。
Tuesday, October 4, 2011
州選挙の行方:オンタリオとアルバータ
先日のStar紙の報道では、Liberal (自由党、党首はマギンティ現州首相)とConservative(保守党、党首フダック)がともに35%、NDP(新民主党、党首ホーワス)が26%の支持率で、近年まれにみる接戦となっている。しかし、NDPのAndrea Horwathはすごい。政治家というにはあまりに地に足がついているといった雰囲気、シャープで切れのいいものの言い方、暖かい人間性など、彼女を知れば知るほどNDPの政策はどうあれ、彼女にチャンスをあげたい、と思ってしまう。
実際のところ、専門家は選挙キャンペーンに入ってからLiberalとConservativeの支持率はほとんど変わっていないというが、NDPだけは選挙戦が始まってから徐々に追い上げているという。1990年代以降、NDPがこれだけ支持率を伸ばすのは初めてという。
ところで、昨日のGlobe紙で人権問題を専門とする弁護士で前アルバータ州法務大臣のアリソン・レッドフォード/Alison Redford(保守党)が次期アルバータ州首相の指名を受けたと読んでびっくりした。彼女はConservativeと言ってもRed Toryでイデオロギー的にはかなりLiberalに近い。アルバータはRed Neck(日焼けした首、という意味で、保守的な田舎の人を指す)で知られる保守色の強い州だが、近年、アルバータもかなり政治イデオロギー的、というか社会的に変化しているのだという感じがする。
というのも、去年の秋、カルガリーはリベラルで文化や福祉などを大事にする政策を主張するNaheed Nenshiを市長に選んだし(カナダの大都市の市長としては初めてのイスラム系、彼の両親はタンザニア出身)、今回も保守党がレッドフォードを選んだという事実は、アルバータ州が大きな社会的変化の渦中にあることを裏付けている。
オンタリオ州に話を移すと、どちらが多数派になろうと、どうやらマイノリティ政府になりそうな予感。個人的には、いくらConservative政府になったとしても、LiberalとNDPがかなりの票を獲得し、バランスの取れた政策を打ち出せるマイノリティ政府となるのであれば、幾分安心できる。
しかし、夫を見ると分かるが、Anything but Conservative(保守党でなければ何でもいい)という人たちが、LiberalとNDPの票を割っているのは事実(特にセントラル・トロントでは)。なので、彼のような人たちは自分の信じる政党に票を入れるというよりは、刻々と変わる状況を読みながら戦略的に投票している。連邦政治にもいえることだが、LiberalとNDPは統合してConservativeに対抗するのも手ではないか。実際、10年ほど前だったか、右派ではProgressive ConservativeとReform Party(のちにCanadian Alliance)という2派が統合した結果、その後は右派の票はそちらに確実に流れるようになった。
NDPのよいところとLiberalのよいところを組み合わせた政党が出来てほしいものだ。NDPの社会福祉や労働者の権利を守る姿勢、弱者を守り、社会正義を追求しようとする姿勢、Liberalのグリーン・エナジー政策、経済政策と教育政策、移民政策は価値ある政治的資産だと思う。
とにかく。10月6日の投票日まであと3日。
実際のところ、専門家は選挙キャンペーンに入ってからLiberalとConservativeの支持率はほとんど変わっていないというが、NDPだけは選挙戦が始まってから徐々に追い上げているという。1990年代以降、NDPがこれだけ支持率を伸ばすのは初めてという。
ところで、昨日のGlobe紙で人権問題を専門とする弁護士で前アルバータ州法務大臣のアリソン・レッドフォード/Alison Redford(保守党)が次期アルバータ州首相の指名を受けたと読んでびっくりした。彼女はConservativeと言ってもRed Toryでイデオロギー的にはかなりLiberalに近い。アルバータはRed Neck(日焼けした首、という意味で、保守的な田舎の人を指す)で知られる保守色の強い州だが、近年、アルバータもかなり政治イデオロギー的、というか社会的に変化しているのだという感じがする。
というのも、去年の秋、カルガリーはリベラルで文化や福祉などを大事にする政策を主張するNaheed Nenshiを市長に選んだし(カナダの大都市の市長としては初めてのイスラム系、彼の両親はタンザニア出身)、今回も保守党がレッドフォードを選んだという事実は、アルバータ州が大きな社会的変化の渦中にあることを裏付けている。
オンタリオ州に話を移すと、どちらが多数派になろうと、どうやらマイノリティ政府になりそうな予感。個人的には、いくらConservative政府になったとしても、LiberalとNDPがかなりの票を獲得し、バランスの取れた政策を打ち出せるマイノリティ政府となるのであれば、幾分安心できる。
しかし、夫を見ると分かるが、Anything but Conservative(保守党でなければ何でもいい)という人たちが、LiberalとNDPの票を割っているのは事実(特にセントラル・トロントでは)。なので、彼のような人たちは自分の信じる政党に票を入れるというよりは、刻々と変わる状況を読みながら戦略的に投票している。連邦政治にもいえることだが、LiberalとNDPは統合してConservativeに対抗するのも手ではないか。実際、10年ほど前だったか、右派ではProgressive ConservativeとReform Party(のちにCanadian Alliance)という2派が統合した結果、その後は右派の票はそちらに確実に流れるようになった。
NDPのよいところとLiberalのよいところを組み合わせた政党が出来てほしいものだ。NDPの社会福祉や労働者の権利を守る姿勢、弱者を守り、社会正義を追求しようとする姿勢、Liberalのグリーン・エナジー政策、経済政策と教育政策、移民政策は価値ある政治的資産だと思う。
とにかく。10月6日の投票日まであと3日。
Thursday, September 15, 2011
オンタリオ州州選挙の行方+経済不況と保守化の動き
10月6日が投票日となったオンタリオ州州選挙。町を歩いていて、各政党の選挙バスを見るにつけ、オンタリオ州は選挙期間真っ只中であることが感じられる。マギンティ州首相率いるLiberal(自由)党が3期連続で政権を握るのか、それともティム・フダックのConservative(保守)党により政権交代になるのか、ジャック・レイトン人気で支持率が伸びているアンドレア・ホーワスのNDPが追い上げるのか。先日のGlobe紙によると、現時点の電話調査では、自由党の支持率27%、保守党26%と実に大接戦になっている。
・選挙の争点
州選挙の争点はいくつかあるが、とりわけ14billionにものぼる負債をどうするかが重要な争点になっている。その他の重要課題としては、経済不況における経済対策、失業対策、教育問題、エネルギー問題といったところだろう。
前回の選挙では、ジョン・トーリー保守党党首がユダヤ系の教育委員会を作ると言ったことで選挙に破れた感じがあるが(あれがなければ保守党は勝利していた可能性が高い)、今回もこうしたWedge issue(最優先課題ではないが、決定的に結果を左右する問題)として取り上げられているのが、いわゆる”Foreign worker”問題。
マギンティが「カナダに来て5年以内の新移民(Highly-skilled new immigrants)を雇用すれば会社に補助金を与える」と公約を掲げたのに対し、フダックが「オンタリオ州民の5万人が失業しているのに外国人労働者(foreign workers)にAffirmative actionを与えるなんてもってのほか」と非常に感情的に反発した。
これに対してマギンティは、フダックが「移民」という言葉を故意に「外国人労働者」と読み替えたことを批判し、「恐怖をあおって票を割ろうとしている」「私のオンタリオにはUsとThemはない」と主張。おまけに、フダックをRacist(人種差別者)と呼び、謝罪まで要求している。
フダックは自分の主張を変えず、今も”foreign workers”と”foreign students”(海外からの優秀な留学生に奨学金を与える自由党のプログラム)を攻撃し、オンタリオ州で失業している、もしくは失業の恐怖に怯えている投票者の票を獲得しようと躍起になっている。
・オンタリオ州の失業問題
しかし、Globe紙(Sept.13, 2011)によると、オンタリオの失業問題は大きな要であることは間違いないが、失業問題をよく分析すると実際に大きな痛手を被っているのは移民以上に若者である、という。
オンタリオ州の失業率は、現在7.5%。そのうち、若者(15~24歳)では16.9%(2010年)と2倍以上にのぼり、この率はカナダ全土でも最も高い数字である。以前、カナダにおける若者の失業問題についてポスティングしたが(Labour Market労働問題のラベルを参照)、この傾向は確かに連邦レベルでも、州レベルでも政治家がただちに手をつけるべき問題である。働き盛りの若者の労働力がアイドリング状態になっていれば、経済的損失はもとより、今後グローバル・マーケットにおけるカナダの立場を弱めることになる。
さらに言えば、去年から中近東で始まったThe Arab Spring、あるいは8月末にロンドンで起こった暴動に見られるように、失業中の若者の不満は社会を大きく揺るがす不安定要因となる。
本来ならば、こうした失業問題や経済問題に討論の時間が割かれるべきなのに、先述したように部分的問題である"foreign worker"に議論が集中することに失望を表す州民も多い。
生涯左派の私は保守党の公約に危機感を感じるし、先日、オンタリオ州州議会ビルの前で見た保守党の選挙バスを見るにつけ非常に不快に思った。バスには、全面にFear, Anger, Unemployment, bad to worse, losing a job, uncertaintyなどという文字が書かれていて、保守党はこうした言葉を「州民の声を反映したもの」と弁明しているが、市民の恐怖をあおって自分の陣営に票を入れてもらおうとするのはいただけない。
前にも触れたが、オンタリオ州レベルでも保守党が勝利すれば、トロントに住む私たちにとっては、市政、州、連邦の3レベルですべて保守党政権が確立されることになる。ヨーロッパ各国をはじめ、先進国では保守党の勢い確実に強まっているのを感じる。経済的先行きが不安定なこの時期、これも時代の趨勢なのだろうか。はじめてトロントにやってきたとき、私にとってはカナダが福祉国家である事実が手にとるようにわかったものだが、これも世界経済の情勢が変わるにつれ、変化していくのであろうか。今回の州選挙の行方に今後も注目したい。
・選挙の争点
州選挙の争点はいくつかあるが、とりわけ14billionにものぼる負債をどうするかが重要な争点になっている。その他の重要課題としては、経済不況における経済対策、失業対策、教育問題、エネルギー問題といったところだろう。
前回の選挙では、ジョン・トーリー保守党党首がユダヤ系の教育委員会を作ると言ったことで選挙に破れた感じがあるが(あれがなければ保守党は勝利していた可能性が高い)、今回もこうしたWedge issue(最優先課題ではないが、決定的に結果を左右する問題)として取り上げられているのが、いわゆる”Foreign worker”問題。
マギンティが「カナダに来て5年以内の新移民(Highly-skilled new immigrants)を雇用すれば会社に補助金を与える」と公約を掲げたのに対し、フダックが「オンタリオ州民の5万人が失業しているのに外国人労働者(foreign workers)にAffirmative actionを与えるなんてもってのほか」と非常に感情的に反発した。
これに対してマギンティは、フダックが「移民」という言葉を故意に「外国人労働者」と読み替えたことを批判し、「恐怖をあおって票を割ろうとしている」「私のオンタリオにはUsとThemはない」と主張。おまけに、フダックをRacist(人種差別者)と呼び、謝罪まで要求している。
フダックは自分の主張を変えず、今も”foreign workers”と”foreign students”(海外からの優秀な留学生に奨学金を与える自由党のプログラム)を攻撃し、オンタリオ州で失業している、もしくは失業の恐怖に怯えている投票者の票を獲得しようと躍起になっている。
・オンタリオ州の失業問題
しかし、Globe紙(Sept.13, 2011)によると、オンタリオの失業問題は大きな要であることは間違いないが、失業問題をよく分析すると実際に大きな痛手を被っているのは移民以上に若者である、という。
オンタリオ州の失業率は、現在7.5%。そのうち、若者(15~24歳)では16.9%(2010年)と2倍以上にのぼり、この率はカナダ全土でも最も高い数字である。以前、カナダにおける若者の失業問題についてポスティングしたが(Labour Market労働問題のラベルを参照)、この傾向は確かに連邦レベルでも、州レベルでも政治家がただちに手をつけるべき問題である。働き盛りの若者の労働力がアイドリング状態になっていれば、経済的損失はもとより、今後グローバル・マーケットにおけるカナダの立場を弱めることになる。
さらに言えば、去年から中近東で始まったThe Arab Spring、あるいは8月末にロンドンで起こった暴動に見られるように、失業中の若者の不満は社会を大きく揺るがす不安定要因となる。
本来ならば、こうした失業問題や経済問題に討論の時間が割かれるべきなのに、先述したように部分的問題である"foreign worker"に議論が集中することに失望を表す州民も多い。
生涯左派の私は保守党の公約に危機感を感じるし、先日、オンタリオ州州議会ビルの前で見た保守党の選挙バスを見るにつけ非常に不快に思った。バスには、全面にFear, Anger, Unemployment, bad to worse, losing a job, uncertaintyなどという文字が書かれていて、保守党はこうした言葉を「州民の声を反映したもの」と弁明しているが、市民の恐怖をあおって自分の陣営に票を入れてもらおうとするのはいただけない。
前にも触れたが、オンタリオ州レベルでも保守党が勝利すれば、トロントに住む私たちにとっては、市政、州、連邦の3レベルですべて保守党政権が確立されることになる。ヨーロッパ各国をはじめ、先進国では保守党の勢い確実に強まっているのを感じる。経済的先行きが不安定なこの時期、これも時代の趨勢なのだろうか。はじめてトロントにやってきたとき、私にとってはカナダが福祉国家である事実が手にとるようにわかったものだが、これも世界経済の情勢が変わるにつれ、変化していくのであろうか。今回の州選挙の行方に今後も注目したい。
Monday, August 29, 2011
レイトンとカナダ政治における社会民主的価値
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市役所前に設えられたメモリアル |
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トロント市役所前に集まったたくさんの市民 |
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ジャック・レイトンの国葬が予定されていた土曜日、市役所のコンクリートいっぱいに書かれた市民からのメッセージを前に、彼の生き方、そして死がどれほどカナダ国民の心を深く揺り動かしたかに気付いてハッとした。
私個人にとって、ジャック・レイトンは何よりも、「弱者の代弁者」だった。トロント市議会議員として、さらに連邦政治に活動拠点を移してからはNDP(新民主党)の党首として、彼の政治的功績には、女性に対する暴力に対する法整備、ゲイ・レズビアンの権利獲得、ホームレスや社会福祉をはじめ、社会的弱者に対する社会保障が数多く含まれている。
日本で派閥争いや地元主義でしか動けず、行動どころか論理的なスピーチすらできない無能な政治家ばかり見てきた私にとっては、ジャック・レイトンのような政治家は非常に新鮮だった。
ジャック・レイトンが死の数日前に書いたとされる、カナダ国民に向けた手紙は、揺るぎない彼の信念を語っていて、非常に感動的である。
“Remember our proud history of social justice, universal health care, public pensions and making sure no one is left behind. There are great challenges before you, from the overwhelming nature of climate change, to the unfairness of an economy that excludes so many from our collective wealth, and the changes necessary to build a more inclusive and generous Canada”.
“And finally, to all Canadians, Canada is a great country, one of the hopes of the world. We can be a better one-- a country of greater equality, justice, and opportunity. We can build a prosperous economy and a society that shares its benefits more fairly.”(最後に、すべてのカナダ国民へ。カナダはすばらしい国です。世界の希望のひとつといってもいいでしょう。私たちが望めば、今以上にすばらしい国にすることができます。より公平で、より正義に満ちた国、そしてより多くの可能性を秘めた国、社会的利益を国民のすべてが享受できる、ゆたかな経済と社会を作りあげることができるのです。)
ジャク・レイトンの手紙を読んで心を動かされるカナダ人の多くは、NDPサポーターでなくても、こうした価値をどこかに秘めているように私には思われる。実際、私の感じでは、このあたりがカナダを世界で最も成功したマルチカルチャー国家(多文化国家)にしているように思われる。というのも、マルチカルチャー国家として成功するためには、弱者にやさしい、寛容で、開かれた、社会正義がまかり通る社会でなくてはならないからだ。サーコージーやキャメロンが「マルチカルチャリズムは失敗だった」と言うのは、彼らの国がマルチカルチャー社会を実現するだけの基盤が整っていなかったことが原因なのだと私は思っている。
さて、市役所周辺にチョークで書かれたメッセージには、英語だけでなくスペイン語、アラビック、中国語、日本語もあった。タミル(スリランカ系)、中国系などさまざまなエスニック・コミュニティからのメッセージも掲げられていた。「弱者の代弁者」であったジャック・レイトンは、まさにマルチカルチャー国家になくてはならない政治家であった。
ジャック・レイトンの手紙には、Social Democratic(社会民主的)な価値 --社会正義、公平で開かれた社会、弱者にやさしい社会、寛容な社会、公平な富の分配、環境保護-- がちりばめられている。NDPの掲げる価値は、しかし、Social Democraticの伝統以外にも、カナダの政治史においては実は基盤として根強く残っているように思う。カナダ政治はイギリスの保守党的価値からはじまっているが、この保守党的価値には根強いNoblesse obligeという考え方が根付いている。これは、豊かな者は社会的弱者に対して保護を与える義務があるという、貴族的な考え方である。カナダの保守党(Conservative Party)も、歴史的にみるとRed Toryという政治的伝統があって、彼らは保守党に属しながらも弱者社会保障を掲げており、社会政策に関してはかなり自由党(Liberal Party)に近いと見られていた。
Tuesday, August 23, 2011
国民の尊敬を勝ち得た政治家ジャック・レイトン死去 + (補足)日本政治を考える:日本政治におけるリーダーシップの不在
補習校で公民を教えていたとき、中学3年生に「政治家というのはどんな人ですか」という質問をしたことがある。その答えには笑いを超えて強い危機感を感じたものだ。
「悪い人」「あくどい人」「やくざ」「えらそーな人」「親のコネでしか何もできない人」「人をだましてお金をぶんどっている人」「頭を下げて、あやまっている人」「失言する人」「失言してあやまっている人」…。
大半が日本で育った彼らにとって、政治家とはネガティブな存在でしかなく、日本人の政治不信がこれほど深刻なのだと実感した。
それに比べると、カナダ人が政治家に対して持っているイメージは格段上だという気がする。ただ、それは、カナダの政治家がみんな国のため、国民のために動いているからではなく、ひろく国民の尊敬を集めるような生き方をしている政治家が、少数ではあるが実際に存在することが理由だと思われる。
NDP(新民主党)の党首ジャック・レイトン/Jack Laytonは明らかにそんな政治家のひとりだった。22日朝に飛び込んできたジャック・レイトン死去のニュースは、カナダ国民を深い悲しみに包んでいる。とくにNDPのサポーターでもない私も夫も(たぶん多くのカナダ人のように)、他のことが手につかないくらいに落ち込んでいる。
カナダ連邦政治で最も左派に属するNDP党が最も誇りする政治的貢献は、Universal Health careであろう。すべての国民が基本的な医療サービスを受けられるこのシステムは、NDPのトミー・ダグラスによって実現され(1966)、この功績によりトミー・ダグラスはCBC放送による国民投票の結果、「最も偉大なカナダ人」に選ばれている。今年7月、ガン治療を理由に一時的に政治から退いていたジャック・レイトンは、社会正義、社会保障、マイノリティの権利などを積極的にかかげてきたNDPの顔だった。今年の総選挙では、政党の歴史上初めてハーパー保守党政府に対する公式野党となり、伝統的に地元政党が強いケベック州で驚くほど票を伸ばし、カナダ政治において決定的な革命的瞬間をもたらした。
英語圏で人を褒めるときに使われることばにIntegrityという言葉がある。ジャック・レイトンはまさにこのIntegrityという言葉がぴったりの生き方をした政治家であったと思う。ジャック・レイトンが死の直前に書いたとされる手紙には、彼の揺ぎない政治的信念が反映されている。社会正義に基づいた社会、公平で平等な社会、社会的弱者にやさしい社会、 誰一人遅れをとることがないような社会、より寛容で開かれた社会の実現。それがジャック・レイトンのビジョンだったし、私はこれまでも、そして今回も彼のビジョンを読み、カナダという国に対して誇りと将来への希望を感じてきた。彼の演説や主張は、私たち、社会正義を求める国民、マイノリティのカナダ国民を奮い立たせてくれるパワーを持っていたが、それは彼のゆるぎない確信、ビジョンに裏付けられていたからだと思う。
言っていることと行動がぴったりと合致し、首相であろうと社会的弱者であろうと決して態度を変えることなく会話ができ、その限りないエネルギーとIntegrity、カリスマ、そしてカナダがどこへ行くべきか、についての明確なビジョンを抱いていたジャック・レイトンは、政治信念の違う政治家、あるいは意見のまったく合わない国民からも尊敬されていた。ハーパー首相が提案した国葬は、彼に対する国民の尊敬を考えるとまったくもってふさわしい形のお別れになるだろうと思う。
http://www.theglobeandmail.com/news/politics/jack-laytons-legacy-wont-end-here/article2138288/
(補足)日本政治を考える:日本政治におけるリーダーシップの不在
ジャック・レイトンのような政治家を見ていると、日本の政治家のなかに彼のような政治家がひとりでもいないものかと思ってしまう。毎年のように首相がかわる日本は、何よりも国際政治の舞台で外交的ダメージを被っていると思う。各紙にあらわれたジャック・レイトン追悼記事を読みながら、政治家が必ず持っていなくてはならないリーダーの条件を考えてみた。
日本では、次期首相候補として某政治家が名乗りを上げているが、彼は以下のクライテリアを満たせるだろうか。何より、今の日本にこれらのクオリフィケーション、リーダーシップを持った政治家はいるのだろうか?
1)確固とした政治ビジョンを持っている
どんな国にしたいのか。国としての特徴(長所や短所)を見極める分析力を持ち、足りないものは何なのかを特定し、それを補うための計画が立てられるのか。そのビジョンは明確に国民に伝わっているのか。そして、そのビジョンに国民は同意できるのか。
2)尊敬=信頼に値するクオリティを持っている
人として尊敬できるか。言っていることと行動が一致しているか。自分でもなく、一部の人でもない、国民のために働く意思があるのか。情熱はあるのか。自分の持っている信念を貫くような生き方をしているか。
3)効率的コミュニケーションができる
論理的にものごとが考えられ、論理的に意見が言えるか。反対意見に対して、論理的に反論できるか。感情的な議論には組しないか。どのレベルの人ともコミュニケーションができるか。言っていることに国民が共鳴できるような話し方ができるか。
結局、リーダーシップ・スキルを持たない政治家は、偶然にも運良く首相(政治家)になれたとしても長期的には続かない。それに、そういう輩が国政に携わっていると国民にとって迷惑極まりない。すべての職業にその職業に必要なスキルが要求されるように、政治家にもかならずスキルのチェックを行うべきだと強く思う。
「悪い人」「あくどい人」「やくざ」「えらそーな人」「親のコネでしか何もできない人」「人をだましてお金をぶんどっている人」「頭を下げて、あやまっている人」「失言する人」「失言してあやまっている人」…。
大半が日本で育った彼らにとって、政治家とはネガティブな存在でしかなく、日本人の政治不信がこれほど深刻なのだと実感した。
それに比べると、カナダ人が政治家に対して持っているイメージは格段上だという気がする。ただ、それは、カナダの政治家がみんな国のため、国民のために動いているからではなく、ひろく国民の尊敬を集めるような生き方をしている政治家が、少数ではあるが実際に存在することが理由だと思われる。
NDP(新民主党)の党首ジャック・レイトン/Jack Laytonは明らかにそんな政治家のひとりだった。22日朝に飛び込んできたジャック・レイトン死去のニュースは、カナダ国民を深い悲しみに包んでいる。とくにNDPのサポーターでもない私も夫も(たぶん多くのカナダ人のように)、他のことが手につかないくらいに落ち込んでいる。
カナダ連邦政治で最も左派に属するNDP党が最も誇りする政治的貢献は、Universal Health careであろう。すべての国民が基本的な医療サービスを受けられるこのシステムは、NDPのトミー・ダグラスによって実現され(1966)、この功績によりトミー・ダグラスはCBC放送による国民投票の結果、「最も偉大なカナダ人」に選ばれている。今年7月、ガン治療を理由に一時的に政治から退いていたジャック・レイトンは、社会正義、社会保障、マイノリティの権利などを積極的にかかげてきたNDPの顔だった。今年の総選挙では、政党の歴史上初めてハーパー保守党政府に対する公式野党となり、伝統的に地元政党が強いケベック州で驚くほど票を伸ばし、カナダ政治において決定的な革命的瞬間をもたらした。
英語圏で人を褒めるときに使われることばにIntegrityという言葉がある。ジャック・レイトンはまさにこのIntegrityという言葉がぴったりの生き方をした政治家であったと思う。ジャック・レイトンが死の直前に書いたとされる手紙には、彼の揺ぎない政治的信念が反映されている。社会正義に基づいた社会、公平で平等な社会、社会的弱者にやさしい社会、 誰一人遅れをとることがないような社会、より寛容で開かれた社会の実現。それがジャック・レイトンのビジョンだったし、私はこれまでも、そして今回も彼のビジョンを読み、カナダという国に対して誇りと将来への希望を感じてきた。彼の演説や主張は、私たち、社会正義を求める国民、マイノリティのカナダ国民を奮い立たせてくれるパワーを持っていたが、それは彼のゆるぎない確信、ビジョンに裏付けられていたからだと思う。
言っていることと行動がぴったりと合致し、首相であろうと社会的弱者であろうと決して態度を変えることなく会話ができ、その限りないエネルギーとIntegrity、カリスマ、そしてカナダがどこへ行くべきか、についての明確なビジョンを抱いていたジャック・レイトンは、政治信念の違う政治家、あるいは意見のまったく合わない国民からも尊敬されていた。ハーパー首相が提案した国葬は、彼に対する国民の尊敬を考えるとまったくもってふさわしい形のお別れになるだろうと思う。
http://www.theglobeandmail.com/news/politics/jack-laytons-legacy-wont-end-here/article2138288/
(補足)日本政治を考える:日本政治におけるリーダーシップの不在
ジャック・レイトンのような政治家を見ていると、日本の政治家のなかに彼のような政治家がひとりでもいないものかと思ってしまう。毎年のように首相がかわる日本は、何よりも国際政治の舞台で外交的ダメージを被っていると思う。各紙にあらわれたジャック・レイトン追悼記事を読みながら、政治家が必ず持っていなくてはならないリーダーの条件を考えてみた。
日本では、次期首相候補として某政治家が名乗りを上げているが、彼は以下のクライテリアを満たせるだろうか。何より、今の日本にこれらのクオリフィケーション、リーダーシップを持った政治家はいるのだろうか?
1)確固とした政治ビジョンを持っている
どんな国にしたいのか。国としての特徴(長所や短所)を見極める分析力を持ち、足りないものは何なのかを特定し、それを補うための計画が立てられるのか。そのビジョンは明確に国民に伝わっているのか。そして、そのビジョンに国民は同意できるのか。
2)尊敬=信頼に値するクオリティを持っている
人として尊敬できるか。言っていることと行動が一致しているか。自分でもなく、一部の人でもない、国民のために働く意思があるのか。情熱はあるのか。自分の持っている信念を貫くような生き方をしているか。
3)効率的コミュニケーションができる
論理的にものごとが考えられ、論理的に意見が言えるか。反対意見に対して、論理的に反論できるか。感情的な議論には組しないか。どのレベルの人ともコミュニケーションができるか。言っていることに国民が共鳴できるような話し方ができるか。
結局、リーダーシップ・スキルを持たない政治家は、偶然にも運良く首相(政治家)になれたとしても長期的には続かない。それに、そういう輩が国政に携わっていると国民にとって迷惑極まりない。すべての職業にその職業に必要なスキルが要求されるように、政治家にもかならずスキルのチェックを行うべきだと強く思う。
Monday, May 2, 2011
カナダ総選挙(2011)とカナダ政治の傾向
http://www.theglobeandmail.com/news/politics/new-political-era-begins-as-tories-win-majority-ndp-seizes-opposition/article2006635/
まだ開票作業は続いているが、どうやらConservative(保守党)が3期目の政権をとり、さらにはMajority Governmentになる見通しが高くなっている。NDP (新民主党)は第2党に躍進、公式に野党第一党となった。惨敗を被っているのはLiberal(自由党)とBQ(Block Quebecoise)。
Conservativeはキャンペーン中に「過半数はないだろう」と自ら宣伝し、国民の票が保守的な経済政策を求める国民の票がNDPに流れるのを防いだように見える。なかなか小ざかしいやり方だ。
ハーバード大学の職を辞して自由党に加わり、党首として今回の選挙に臨んだマイケル・イグナティエフは、自らの議席すら確保できるかどうかわからない接戦を強いられている。イグナティエフの退陣は確実だろう。自由党ナンバー2のボブ・レエは私の選挙区(ローズデール)でまあ楽勝しているが、きっと彼が自由党を率いていくことになるに違いない。
ケベック州の独立をうたうBQ(ブロック・ケベコワ)の党首ジル・デュセッペも自らの議席をNDP候補に譲り、彼の今後も退陣しかないだろう。
ジャック・レイトン率いるNDPの躍進には目を見張るものがあった。今のところ手に入る情報をもとにすれば、NDPはケベックで票を伸ばし、これまでBQに流れていた票を確保したように見える。NDPは興味深いことに、ケベックの(カナダからの独立)を前向きに受け止める声明を発表したこと、また、ケベコワ(ケベック人)の歴史的に保守系政策に対する嫌悪感をから、「何としても保守党だけは避けたい」という意思表示と見える。
そうなると、今後、注目したいのは、自由党Liberalと国民民主党NDPとの連立政権の可能性だ。次期党首となるだろうボブ・レエはもともと国民民主党のオンタリオ州議会議員で、NDPが州政権をとったときには党首として、オンタリオ政府の州知事として画期的な政策を敷き、いくつかは成功したが、社会福祉にお金をつぎ込んで州政府を多大なDeficitの状態に追い込んだ。そのことから、オンタリオ州ではFiscally conservativeな市民の間では不人気だが、彼とNDPの間で連立の動きを探ることは可能だろう。
ヨーロッパでもそうだが、カナダでは人々がFiscal conservatismになっている傾向があるように見受けられる。これは私がカナダに来た12年前と比べて、カナダ人の政治意識における最も大きな変化だと思う。Fiscal Conservatismの日本語が何なのか思い出せないが、これは、小さな政府(国営企業の私有化)、税金は抑える、社会福祉には消極的、ビジネスに甘い・・・などの特徴を有し、そのため、資本主義の恩恵を被っている人、とりわけビジネス分野の人たちから支援される傾向にある。この傾向が進むにつれ、教育や社会福祉、移民向けサービスなどに力を入れてきた自由党Liberalは票を失ってきた。
しかし、アメリカとの違いとして、財政政策では保守化しているカナダ人も、やはり社会的な保守化(Social conservatism)はしていない点は重要なポイントだと思う。たとえば、「中絶反対」とか「キリスト教」とか「犯罪は徹底的に処罰する」という政策は大多数のカナダ人には受け入れ難い。やはり社会的には自由主義なのだ(Social liberalism)。
話が広がってしまったが、しかし、しかし、本当にこれは大変なことになった。今後、過半数を確保した保守党政府は今まで以上に経費削減や社会福祉の予算をカットするだろう。夫の大学も影響を受けないわけがないし、とりわけ人文系は予算を削られるだろう(彼らはマネジメントやビジネス、サイエンスには喜んでお金を出すんだが・・・)。移民向けサービスなどの予算も今まで以上に削られるだろう。ここはひとつ、野党第一党となったNDP、好感度ナンバーワンのジャック・レイトンにがんばってもらいたい。
まだ開票作業は続いているが、どうやらConservative(保守党)が3期目の政権をとり、さらにはMajority Governmentになる見通しが高くなっている。NDP (新民主党)は第2党に躍進、公式に野党第一党となった。惨敗を被っているのはLiberal(自由党)とBQ(Block Quebecoise)。
Conservativeはキャンペーン中に「過半数はないだろう」と自ら宣伝し、国民の票が保守的な経済政策を求める国民の票がNDPに流れるのを防いだように見える。なかなか小ざかしいやり方だ。
ハーバード大学の職を辞して自由党に加わり、党首として今回の選挙に臨んだマイケル・イグナティエフは、自らの議席すら確保できるかどうかわからない接戦を強いられている。イグナティエフの退陣は確実だろう。自由党ナンバー2のボブ・レエは私の選挙区(ローズデール)でまあ楽勝しているが、きっと彼が自由党を率いていくことになるに違いない。
ケベック州の独立をうたうBQ(ブロック・ケベコワ)の党首ジル・デュセッペも自らの議席をNDP候補に譲り、彼の今後も退陣しかないだろう。
ジャック・レイトン率いるNDPの躍進には目を見張るものがあった。今のところ手に入る情報をもとにすれば、NDPはケベックで票を伸ばし、これまでBQに流れていた票を確保したように見える。NDPは興味深いことに、ケベックの(カナダからの独立)を前向きに受け止める声明を発表したこと、また、ケベコワ(ケベック人)の歴史的に保守系政策に対する嫌悪感をから、「何としても保守党だけは避けたい」という意思表示と見える。
そうなると、今後、注目したいのは、自由党Liberalと国民民主党NDPとの連立政権の可能性だ。次期党首となるだろうボブ・レエはもともと国民民主党のオンタリオ州議会議員で、NDPが州政権をとったときには党首として、オンタリオ政府の州知事として画期的な政策を敷き、いくつかは成功したが、社会福祉にお金をつぎ込んで州政府を多大なDeficitの状態に追い込んだ。そのことから、オンタリオ州ではFiscally conservativeな市民の間では不人気だが、彼とNDPの間で連立の動きを探ることは可能だろう。
ヨーロッパでもそうだが、カナダでは人々がFiscal conservatismになっている傾向があるように見受けられる。これは私がカナダに来た12年前と比べて、カナダ人の政治意識における最も大きな変化だと思う。Fiscal Conservatismの日本語が何なのか思い出せないが、これは、小さな政府(国営企業の私有化)、税金は抑える、社会福祉には消極的、ビジネスに甘い・・・などの特徴を有し、そのため、資本主義の恩恵を被っている人、とりわけビジネス分野の人たちから支援される傾向にある。この傾向が進むにつれ、教育や社会福祉、移民向けサービスなどに力を入れてきた自由党Liberalは票を失ってきた。
しかし、アメリカとの違いとして、財政政策では保守化しているカナダ人も、やはり社会的な保守化(Social conservatism)はしていない点は重要なポイントだと思う。たとえば、「中絶反対」とか「キリスト教」とか「犯罪は徹底的に処罰する」という政策は大多数のカナダ人には受け入れ難い。やはり社会的には自由主義なのだ(Social liberalism)。
話が広がってしまったが、しかし、しかし、本当にこれは大変なことになった。今後、過半数を確保した保守党政府は今まで以上に経費削減や社会福祉の予算をカットするだろう。夫の大学も影響を受けないわけがないし、とりわけ人文系は予算を削られるだろう(彼らはマネジメントやビジネス、サイエンスには喜んでお金を出すんだが・・・)。移民向けサービスなどの予算も今まで以上に削られるだろう。ここはひとつ、野党第一党となったNDP、好感度ナンバーワンのジャック・レイトンにがんばってもらいたい。
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