Tuesday, November 8, 2011

ヨーロッパのロマ問題と市民権を得つつあるネオナチ

先週はホロコースト教育ウィークということで、近所のトロント市立図書館でロマ問題についてのレクチャーが開かれていた。


「ホロコースト」といえばユダヤ人虐殺に対してつけられたことばであるが、ナチスによって殺害されたグループのなかには、ほかにもロマや同性愛者、障害者、共産主義者などもいたことを忘れてはならない。


この講演で知ったことだが、ロマにとってナチによる民族虐殺は「ポライモス」と呼ばれ、正確にどれだけの人口が殺害されたかは分かっていないが、戦後、ヨーロッパのロマ人口は3分の1まで激減したという。


ロマとは、インド北西部が起源とされる移動型民族で、ヨーロッパを放浪しながら暮らし、長年、少数民族として差別の対象となってきた。「ジプシー」という名称は、誤解に基づいて外部からつけられた名称であり、この言葉自体が差別用語だとされている。


講演のなかで、ルーマニアからカナダに難民申請している女性の話が出たが、彼女によればルーマニアにおけるロマ迫害のすざまじさといったら想像を絶するものらしい。突然、路上で襲われ、まわりには見ている人もいたうえに、警察もいたというのに彼らは何もせず黙って見ていたという。


ここ十数年ほどのあいだにヨーロッパ全土でネオナチの動きが活発化しているが、少数民族であるロマも迫害の対象になっている。「働かず、盗みを働いている」と言われ嫌悪されているが、ロマであるということを理由に就職や教育をはじめとする経済活動から締め出している社会構造をみると、これはれっきとした迫害であると思われる。


ちなみに、私も最近、新聞記事で知ったことだが、ここ最近、中央ヨーロッパのロマがカナダに難民申請をし、難民として入ってくるケースが非常に増えているという。講演をした女性は、「昨日、ジェイソン・ケニー(移民大臣)と会って、ロマ難民受け入れを要請してきた」と言っていた。


ところで、ルーマニアやハンガリーなどでは、反移民、反ヨーロッパ系の思想をもつ自警団の動きが活発化している。それとともに、同じ思想で動いているネオナチの動きも活発で、ハンガリーでは「ロマを収容所に入れよ」といったようなことを平気で政治家などが発言している。反移民、反外国人というスタンスを示している市長や政治家も実際にいる。ロシアでも数十年にわたって、同じようなネオナチの動きが活発化していて、これはプーチンがパワー・バキュームの後、ナショナリズムを煽り立てた挙句の醜い結末という感じがする。こうした話をちらほらとメディアで読んだり聞いたりしてきたが、その現状はどんどん悪化し、ヨーロッパに暮らす移民、あるいはエスニック・マイノリティにとって大変なことになっている、との思いを講演を聴きながら新たにした。


そうした状況をカナダから見ていると、あまりにもヨーロッパとの違いが明白になってきて、カナダの平和さに感謝の気持ちが湧いてくる。ナショナリズムは国民のあいだに案外簡単に植えつけられるが、一方ではその結末は醜いものであることは、歴史を見ると明らかである。ナショナリズムほど危険で胡散臭いものはない。

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