Monday, November 7, 2011

カナダ移民政策の転換

カナダの移民政策に重要な変化が見られている。

先日、CBCラジオの Metro Morningで、Jason Kenny(保守党政府のImmigration Minister) が、来年度の移民政策についてインタビューを受けていた。ケニーによれば、カナダ政府は当面は移民の受け入れ数を現状維持としておきたいが、誰を受け入れるかに関しては政策に変化があるという。カナダはこれまで「技術移民Skilled worker」クラスの移民の呼び込みに最も積極的であったが、今後この傾向はさらに加速するという。一方、減少傾向にあるのは、スパウス(合法的結婚をしている、あるいは同棲パートナー、家族クラス)とその子どもたち、そしてlive-in caregiver(ナニー)プログラム(このプログラムについてはリンク参照:http://torontostew.blogspot.com/2010/11/blog-post_27.html)。また、ケニーによれば、2012年には240,000から265,000人を目標にしているという(カナダは毎年、全人口の1%にあたる移民をターゲットとして受け入れている)。


また、最も大きな変化のひとつは、両親、祖父母の呼び寄せプログラムで、このプログラムを2年間モラトリアムとすることとし、今後2年間は申請ができなくなること。そのかわりに、8週間ほどで申請許可がおりるスーパービザの発行が始まり、これによると親族は10年の間に最長2年間継続して滞在することができるようになるという。ただ、もちろんこれはビジタービザなので、滞在中の医療費は自分持ち、さらには$17K/yrの所持金が必要となる(つまり、カナダ政府の世話にならないのであれば、長期滞在は大歓迎、というスタンス)。


どの移民国でもそうだが、カナダが求めている移民は、カナダの経済に最もスムースに適合するカテゴリーの移民である。今回の政策変更を見る限り、カナダ政府が欲しい移民の像とは、独身で、英語かフランス語ができ、大学、または大学院レベルの高等教育を受けた専門職クラスの人、ということになる。数年前に設置された比較的新しいカテゴリー、the Canadian Experience Classでの申請は、移民申請から移民許可が下りるまでの時間が最も早急になされるという。このカテゴリーに相当するのは、カナダの高等教育を受け、英語フランス語のどちらかの言語に堪能な若い人たち。the Canadian Experience Classでの受け入れ移民数は2009年には2545人であったが、2012年には7000人に増加すると見込まれている。


インタビューで、ケニーは世界の先進国で移民競争が加速していることを強調し、カナダは現状の経済に見合った移民を受け入れる必要性を繰り返していた。さらに、カナダには、たとえばヨーロッパ諸国に比べると移民排斥を目指す政党はないし、一般のカナダ人も移民をあたたかく迎え入れているため、ヨーロッパで昨今見られる移民排斥の動きを心配する必要はない、と言っていた。


歴史的に見て、移民政策にどちらかというと消極的な保守党も、現状の経済水準を維持するためには移民数の維持が必要、という点では合意しているようだ。しかし、リベラル(自由)党政府との違いは、移民の選別に表れている。とりわけ問題の多い家族クラスや難民クラスをなるべく減らし、カナダ経済に寄与してくれそうな技術移民を積極的に受け入れることがその特徴である。家族クラスでは、最近、偽装結婚の問題が取り上げられており、難民クラスは難民申請をしてから後に国が生活費を提供しなくてはならないことから、どちらかというと問題が多いのである。また、保守党政権になって、移民に対する生活補助のSettlementプログラム予算は年々削減傾向にある。


カナダの移民問題の大きな課題のひとつは、受け入れた移民が自らのスキルをカナダ社会に還元できるような就職先を保障できる環境が作り出せるかどうか、である。カナダはニュージーランド同様、人口比でみると移民受け入れ数が最も高い国である。また、カナダの移民政策は、the best and brightestという言葉で知られる通り、世界でも最も優れた人材を集めることが基本である。そして、実際に移民でトロントに住んでいる人たちの大半が高学歴、技術職の人が多く見られる。就職エージェンシーでは、こうした元エンジニア、元IT技術者、元教師、元ビジネス・コンサルタントなどが多数、仕事を探している。私たちが実際に知っているのは、こうした移民たちが自分たちのスキルを活かせず、仕事が見つからず通常は賃金の安い仕事についているか(トロントのタクシー運転手の大半が博士号を持っている、というのはジョークにもならない事実)、失望して自国に帰国するか、あるいは最悪のケースは生活保護を受けている現実である。


この問題の鍵を握っているのは、いうまでもなく雇用者である。最近出されたある研究結果によると、アングロナイズされた名前の履歴書を送ると、非アングロサクソン系の名前より面接に呼ばれる可能性がはるかに高いということだ(10年ほど前にも同じ研究結果が出ている)。ことばや習慣の問題、会社の雰囲気にあっているかどうか、という点を雇用者は気にしているようだが、どこかに移民に対する偏見が見え隠れしているように思う。実際、移民といってもアメリカやイギリス、ヨーロッパからの英語の堪能な移民にとっては、就職は比較的難がない。


確かに連邦政府(あるいは州政府)の移民政策は、かなり公正であると思う。ただ、だからといってカナダでは移民差別がないというわけではなく、この国では制度上の差別はすでに撤廃されているが、実際問題としてみると、個々の心のなかにほんのわずかな偏見が残っている、というのが私の感じであり、これこそがカナダに移住した移民が数年後に気付くフラストレーションなのではないか。

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