Sunday, April 24, 2011
国際交流基金の震災に関するパネル・ディスカッション:報告
Nikkei Voice(2001年4月号)掲載
東北大震災から12日を経た3月23日、国際交流基金(トロント)において「2011年東北・関東大震災:現状と復興への見通し」と題したパネル・ディスカッションが開催された(英語)。
鈴木所長の説明にもあったとおり、3月11日の震災を受け、国際交流基金ではオリジナルのタイトル(Japan as a “Normal Country?: A Nation in Search of Its Place in the World”)を東北・関東大震災と復興政策に関するディスカッションに急遽変更、会場には多数の参加者が詰め掛けた。
まず、デイビッド・ウェルチ教授(ウォータールー大学)が、「今回の震災では甚大な被害が出ているが、日本は驚くほど早い復興を果たすだろう」という楽観的コメントを出したが、同様の眺望は(今回の地震を実際に経験した)3学者にも共通していた。
田所教授(慶応義塾大学)は、阪神・淡路大震災(1995年)と東北大震災を比較し、死亡原因の多くが火災であった阪神大震災に比べ、今回は津波が大きな原因となったこと、東北沿岸では阪神・淡路大震災の教訓を活かし、護岸工事や建築基準の引き上げなどのインフラ整備がなされていたことを挙げ、それにもかかわらず今回の地震は予想以上の規模だったと説明。メディアではあまり取り上げられることはないが、建物の耐震基準、東北新幹線ほか鉄道システム、自衛隊の早期動員および救助活動、ボランティア活動など、うまく機能した点もあったことを強調した。一方で、うまくいかなかった点として、福島第一原発事故における人為ミス、緊急安全対策などの危機管理体制の問題、援助物資ルートの整備および市民による買占めなどを挙げた。
さらに、海外では原発事故に関する話題がことさら取り上げられたことから、日本在住の外国人のあいだでパニックが広がった例を挙げ、一方で日本の報道は原発のみに絞られることなく、それが日本人の冷静な態度につながったと説明した。また、今回は、関東大震災時の「朝鮮人が井戸に毒を入れた」といったデマや流言は出てはいないことを付け加えた。
最後に、震災後、海外メディアでは日本人の地震への対応を「冷静・沈着」という言葉でくくり、これを「日本人的態度」(個の欠如、集団主義など)としていることをふまえ、それらがたとえポジティブなものであってもカリカチュアである点を指摘した。
添谷教授(慶応義塾大学)もまた、自身の経験をもとに、日本人の冷静な対応を強調しながら、国内メディアの報道に関して、テレビ局が被災地に出向き、実際に被災者のニーズを問い、彼らの声を伝えたこと、また、田所教授と同様、海外メディアや海外政府から情報集めをしていた関東地方の外国人の対応を例を挙げて説明したうえで、バランスのとれた国内報道によって、日本人の冷静な態度が保たれたと推測する。
また、震災時および後の管首相のリーダーシップの欠如、さらに日本政府の構造的欠陥は、大規模災害に直面してそれを乗り越えようとしている日本国民の前向きな態度とは対照的であるとコメントした。
さらに、今回の震災に対する諸外国の対応に、日本に対する距離を見ることができるのではないか、と提案。韓国および中国政府が率先して援助を申し出たこと、日本でも人気の韓国映画俳優たちも積極的に支援を呼びかけている例などを挙げた。一方、西洋メディアにおける報道は、日本政府に対する強い不信感の表れと見ている。
木村教授(渋沢栄一記念財団研究部長)も同様に「国民の間にパニックはなかった」と主張し、自然災害に対する日本人の考え方として天譴論と運命論について説明した。前者は「天災は天が下した罰」とし、自然災害を将来を改良するためのチャンスであると見る一方、後者は「運命だから仕方がない」と、どちらも自然災害は防ぎようがないという自然に対する人間の無力さが根底にあると指摘した。
また、1775年のリスボン大震災が人間の考え方を大きく変えたこと、関東大震災(1923年)後にも、その後の政治の方向が定まった点、西洋からすぐれた技術を取り入れ、東京を設計し直す契機となったことなど、今回の震災によって日本社会および政治が改良される可能性を強調していた。
目下、海外メディアが最も注目を集めているのは福島第一原発事故。ウェルチ教授は、「メディアは原発被害を誇張しているが、日本が今回のことで原発を中止し、他の電力供給源に頼るようなことになれば、より大きな被害が出る」と指摘し、チェルノブイリ原発事故とは規模が違う点、被害者の数などもこの規模での地震では少ないことなどを他の災害と比較して説明した。
各パネリストの主張は、今回の災害は未曾有の大災害ではあったが、これを機に停滞していた日本経済や政治に風穴を開けるチャンスでもある、という点で一致し、復興への可能性と期待を示唆した。
実際に地震を経験したパネリスト三人の話は、日本社会の対応が具体的に知れて興味深く、また、短い準備時間にデータや統計を用意して分析したウェルチ氏の話にも説得力があったが、一方では、被害がすでに出終わったかのような楽観的主張には疑問を感じた。さらに「海外メディアは原発一点に的を絞った一方、日本メディアは国民の恐怖を煽らないようなバランスの取れた報道をした」という主張は、(もちろんそうだとうれしいが)福島原発の状況が刻々と深刻化する現時点では、まだ判断がつかないのではないか、との感想を否めなかった。
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